形容詞の potential はよく「潜在的な」と訳されます。 たしかに結果的に「潜在的な」という訳で問題ない場合もあります。 たとえば potential customer は「顧客になりそうな人」と言っても「潜在顧客」と言っても 結局指すものはほぼ同じなので「潜在顧客」の訳で十分でしょう。 しかし「潜在」は文字通り「潜んで存在する」の意であるのに対して、potential は「今後起こる可能性がある」を意味するので、 厳密には「潜在的な」は正しい訳とは言えません。
(臨床試験に参加した場合に生じる可能性のあるリスク)
臨床試験に参加しようとする人には、potential risks について説明して同意(インフォームドコンセント)を得なければなりません。 この potential risks を「潜在的リスク」と言うのと「生じる可能性のあるリスク」と言うのとでは少し印象が違います。 「潜在的リスク」と言うと、表には現れていないけれども確実に危険があるように読めて、試験への参加を断られてしまうかもしれません。
(抗菌薬の不適切な使用によって起こりうる結果)
「結果」は何かの後に起こるものですから、「現在存在している」を意味する「潜在的」と組み合わせた「潜在的結果」はおかしいと思います。 しかしインターネットで検索すると「潜在的結果」は意外に多くヒットします。 なぜだろうと思って「潜在的結果」と書かれている文脈をよく読んでみると、その「潜在的」は「潜んで存在する」ではなく 「起こる可能性のある」の意味で使われているようです。 「潜在的」に potential の意味が加わりつつあるのかもしれません。 そのような使い方をする人が増えて、そのうち辞書にも「潜在的」の意味として「起こる可能性がある」と書かれるようになるかもしれませんが、 しかし少なくとも現時点では、「潜在的結果」は不自然だと思います。
(1)*8月22日午後5時の時点で、22の州から電子タバコ製品の使用と関連する193の重症肺疾患の潜在的症例が報告されていた。
(2)8月22日午後5時の時点で、22の州から電子タバコ製品の使用が原因と疑われる193の重症肺疾患症例が報告されていた。
potential cases ... associated with ... は「原因はまだ確定していないが、 今後調査結果がわかれば電子タバコの関与が裏付けられる可能性のある症例」という意味で、 「~が原因と疑われる症例」や「~が原因となる可能性のある症例」と訳せます。 (1)に書かれている「潜在的症例」は、文字通り解釈すれば「隠れて存在する症例」ですが、これでは何を言っているのかわかりません。 potential は cases だけでなく、下線を引いた部分全体にかかるように読む必要があります。