メディカル翻訳雑感

メディカル翻訳講師のブログ。翻訳の勉強に役立ちそうなヒントや情報を思いつくまま書いています。

メディカル翻訳に必要なもの

メディカル翻訳(医薬翻訳)に関連してインターネット上でさまざまなことが言われています。「専門知識がなくても短期間でプロの翻訳者になれる」とか、逆に「専門分野のバックグラウンドがなければメディカル翻訳は無理」とか。しかし、これまで多くの受講生を見てきた経験から言わせてもらうと、どちらも正しくありません。

そもそも誰でも簡単にできるのであれば、この分野の翻訳は職業として成立しないでしょう。メディカル翻訳がカバーする範囲は非常に広いので、ある程度の時間をかけて勉強する覚悟は必要です。

「専門分野のバックグラウンドが必要」という意見はよく聞きます。しかし、広範囲に及ぶ医学・薬学の知識を持っていなければならないとしたら、医師以外にメディカル翻訳をできる人などいないでしょう。生物学や化学のバックグラウンドを持つ人がこの分野の翻訳に有利であるのは間違いないですが、臨床研究や医薬品開発に関連する文書などを翻訳する場合は、いわゆる文系の人でも、生物・化学系の人と条件はあまり変わらないと思います。

これからメディカル翻訳の勉強を始めようという人には、英語力の重要性を強調しておきます。たとえば勉強を開始する時点で、(A)専門知識はあるけれども英語力はない人(B)英語はできるけれども専門知識はない人を比べて、1年後にどちらがプロの翻訳者になる可能性があるかと言えば、間違いなく(B)の人です。専門分野の知識は勉強すればその分だけ確実に積みあがっていくのに対して、翻訳に必要なレベルの英語力となると、目に見える形でメキメキと身についていくことはないからです。専門知識も英語力もどちらも重要ですが、その習得のスピードに大きな差があります。

翻訳は語学力があってはじめて成り立つ仕事です。英語力が重要であることは当たり前なのですが、この分野の翻訳では軽く見られているような気がします。