メディカル翻訳雑感

メディカル翻訳講師のブログ。翻訳の勉強に役立ちそうなヒントや情報を思いつくまま書いています。

Acute Kidney Injury(急性腎障害)

今回の YouTube動画は Alila Medical Media というチャンネルの Acute Kidney Injury(急性腎障害)です。

Acute Kidney Injury, a.k.a. Acute Renal Failure, Animation

Alila Medical Media は、体のしくみや病気について解説したアニメーション動画を多数公開しています。今回紹介する動画には腎臓に関連する基本的な用語がたくさん出てくるので、これらを覚えるのに大いに役立つと思います。
動画タイトル内の a.k.a.は also known as の略です。

動画には自動生成ではない正確な英語字幕が用意されています。
日本からアクセスした場合、字幕ボタンを押すとデフォルトでアラビア語字幕が表示されるようです。その場合は、動画の設定から「英語」を選択してください。YouTube での字幕や文字起こしの表示方法については、 字幕と文字起こしを表示させるを参照してください。

以下、主な語句を解説します。

acute kidney injury:急性腎障害
acute kidney injury(AKI)という用語が導入されたのは2000年代になってからです。それまで使われてきた acute renal failure(急性腎不全)は定義や診断基準が統一されていなかったこと、また早期の段階の腎障害を含んでいなかったことなどから新しい概念が必要になり、AKI が定義されました。
injury は普通「傷害」や「損傷」と訳されますが、日本の関連学会は AKI に相当する病態を「急性腎障害」と命名しました。ですから、特に injury のニュアンスに関心がある場合を除いて、翻訳としては「急性腎傷害」ではなく「急性腎障害」の方を書くべきでしょう。

AKI, also known as acute renal failure
AKI は従来の急性腎不全に加えて軽症の腎機能低下をも含めた概念ですから、厳密にはこの言い方は正しくありません。しかし、AKI も急性腎不全も「急激な腎機能の低下」を意味するという点では同じです。

loss of kidney function:腎機能の低下
loss は、まず「喪失」の訳が浮かぶかもしれませんが、この分野では「(機能の)低下」や「(量の)減少」の意味であることが多いです。

urine composition:尿成分
compositionは「組成」と訳されることが多いですが、尿に関しては「尿組成」より「尿成分」の方が自然でしょう。

blood parameter(s):血液パラメーター;血液検査値

fluid, electrolyte and acid-base disorders:体液、電解質、酸塩基平衡の異常

potassium overload;hyperkalemia
逐語訳すれば potassium overload は「カリウム値の過剰」、hyperkalemia は「高カリウム血症」ですが、hyperkalemia は potassium overload と同格の言い換えです。

excess of fluid volume:体液量増加(=hypervolemia)
hypervolemia:(循環)血液量増加
体に摂取された水は、まず(細胞ではなく)血管内に入ります。また、汗や尿として体外へ出ていく水は(細胞からではなく)血管内から出ていきます。つまり、体液の摂取と排泄について問題にするときは血管内の水分である血漿を考えることになります。ですから、excess of fluid volume も hypervolemia も、ここで問題にしているのは循環血液量です。

both kidneys must fail for AKI to be diagnosed
「左右両方の腎臓が機能不全になってはじめて AKI と診断されます」
直訳は「AKI が診断されるためには両方の腎臓が機能不全になる必要があります」。左右どちらか一方の腎臓だけ機能が低下しても、もう一方の腎臓が正常に機能していれば検査値に異常は現れないので AKI と診断できないという意味。

intrinsic kidney disease:腎臓自体に原因がある腎疾患
この後に述べているように、腎機能障害はその原因がどこにあるかによって、①腎前性(prerenal)、②腎性(renal)、③腎後性(postrenal)、の3つに分類します。「腎前性でも腎後性でもなく腎臓そのものに原因がある」という点を強調する意味で intrinsic と述べています。

underlying condition:根本原因となっている疾患
underlying condition は状況によっては「基礎疾患」と訳すこともありますが、ここでは「基礎疾患」は的外れでしょう。「基礎疾患」は pre-existing disease や chronic disease の意味であることが多いです。

inadequate blood flow:不十分な血流、血流の不足

extracellular fluid volume depletion:細胞外液量の低下

glomerular filtration rate:糸球体濾過量

autoregulatory mechanisms:自動調節能、自動調節機構

hypoperfusion:腎灌流の低下
perfusion はここでは腎灌流(renal perfusion)を意味します。腎灌流とは腎臓に入ってくる血液の流れ(量)です。つまり hypoperfusion は前文の volume loss や low blood flow と同じものを指しています。

Medications that cause dilation of the efferent arteriole ...
輸出細動脈を拡張させる、あるいは輸入細動脈を収縮させる薬は、糸球体内圧を低下させるので、AKI を発症させる可能性があります。この文は、薬の副作用として腎前性 AKI が発症する場合を述べています。

after the underlying condition is resolved
「根本原因の疾患が治癒すれば」
be resolved:ここでは病気が「治る」という意味。

offending drug:副作用の原因薬剤

necrosis of any of its components: the glomeruli, renal tubules, and interstitium
「糸球体、尿細管、間質といった腎臓の構成要素のいずれかに生じる壊死」

storage part(s):蓄尿部(膀胱)

voiding part(s):排尿部(尿管、尿道)

microscopic obstruction
microscopic は「肉眼では見えないほど小さい」という意味で、「微細」や「微小」などと訳せます。ただし、尿細管はもともと微細な管なので、日本では尿細管の閉塞について「微細」、「微小」と言うことは少ないかもしれなせん。

cellular debris:(壊死)細胞片
debris は「破壊されたものの破片」です。「壊死組織片」や「壊死細胞片」の「片」に当たります。状況によっては「デブリ」と訳されることもあります。

urine output may or may not be reduced
「尿量は減少することもあれば減少しないこともあります」

urinary sediment:尿沈渣

urinalysis:尿検査、検尿

 

localize

前回の記事で localize に軽く触れましたが、もう少し詳しく見てみましょう。
医学文献によく出てくる localize の意味は大きく分けて、(1)「限られた場所に存在する」(限局する、局在する)と(2)「場所を突き止める」の2つです。

(1)の意味で使われている例

The rash of herpes zoster is usually localized to one side of the body.
(通例、帯状疱疹の発疹は体の一方の側に限局して現れる)

Localized edema indicates venous or lymphatic obstruction, or inflammatory.
(限局性の浮腫は、静脈やリンパ管の閉塞、または炎症による浮腫を示唆する)

(2)の意味で使われている例

It is necessary to hear sound with both ears to localize sounds.
(音源の位置を特定するには左右両方の耳で音を聞くことが必要である)

We performed a CT angiography of the abdomen and pelvis to localize the bleeding site.
(出血部位を特定するために腹部・骨盤部のCT血管造影を行った)

localize を画一的に「局在する」や「限局する」と訳しているのを見かけますが、上の例の localize the bleeding site を「出血部位を限局する」と訳すと、「(何らかの処置をすることによって)出血を狭い範囲にとどめておく」のように読めて、この文脈では不適当です。

「局在」や「限局」の「局」は「仕切られた部屋」の意味から「狭い範囲の場所」を表します。したがって「局在する」や「限局する」の本来の意味は「限られた狭い場所に存在する」や「場所の範囲を狭く限る」です。

上記(1)の意味でも「局在する」や「限局する」の訳がふさわしくない場合もあります。

Crohn disease is a chronic, relapsing inflammatory bowel disease characterized by granulomatous inflammation, primarily localized to the terminal ileum.
(クローン病は肉芽腫性炎症を特徴とする慢性再発性の炎症性腸疾患である。この炎症は回腸末端に生じることが多い)

この primarily localized to を「(炎症は)主に回腸末端に局在する」と訳すのは、「回腸末端に限られる」点が強調されすぎて、クローン病の説明として誤解を招きます。クローン病の炎症は消化管のどの部分でも起こります。このような localized to は、単に「~にある」「~に存在する」の意味で使われていると考えるべきです。

 

GI Bleed with Case

今回紹介する動画は Lecturio Medical というチャンネルの GI Bleed with Case(消化管出血とその症例)です。

GI Bleed with Case – Approach to Patients with GI Symptoms | Lecturio

Lecturio Medical は、医師や看護師などを目指す人向けに多くの動画を提供しています。今回の動画は消化管出血の症例研究の導入部分で、内容は次の2つの動画へ続きます。

Initial Management and Diagnostic Studies – Approach to Patients with GI Symptoms | Lecturio

Patients with GI Bleed – Approach to Patients with GI Symptoms | Lecturio

以下、主な語句を解説します。

GI Bleed:消化管出血
GI(gastrointestinal):消化管の;胃腸(管)の
gastro は「胃」、intestine は「腸」を意味するので、たいていの辞書には gastrointestinal の訳として「胃腸の」としか書かれていませんが、「消化管の」と訳す方が適当な場合が多いです。たとえば upper GI tract は、胃と腸だけでなく食道や口も含むので「上部胃腸管」よりも「上部消化管」と言う方が普通です。また lower GI tract(下部消化管)は空腸から肛門までを意味し、胃を含まないので「下部胃腸管」とはあまり言いません。

coffee ground emesis:コーヒー残渣様嘔吐;コーヒー残渣様吐物の嘔吐
「コーヒー残渣様」とは「コーヒーを抽出した後のコーヒーかすのような」という意味なので、厳密に言えば「嘔吐物(吐いたもの)」を修飾すべきで、「嘔吐(吐くこと)」を修飾するのはおかしいかもしれません。しかし、多くの専門家が「コーヒー残渣様嘔吐」と言っています。

dull pain:鈍痛
epigastric pain:心窩部痛

3 to 6 beers a day
米国で one beer はアルコール度数5%のビール12オンス(355mL)に相当します。訳としては「ビール(355mL)を1日3~6本」などが可能です。

baby aspirin
baby aspirin は81mg以下の「低用量アスピリン」。低用量のアスピリンは血栓・塞栓をできにくくする効果があります(高用量ではこの効果は失われます)。baby aspirin を「小児用アスピリン」と訳しているのを見かけますが、アスピリンは子供には推奨されないので、現在「小児用アスピリン」というものはありません。

SpO2(saturation of oxygen):酸素飽和度
酸素飽和度は、血中の赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているかを示します。
S のあとの p が何を略したものかについてはいろいろなことが言われています。英語の文献では "oxygen saturation measured by pulse oximetry (SpO2)" のような記述が多いので、測定方法の pulse oximetry(パルスオキシメトリー)の頭文字と考えるのが妥当だと思います。他に、peripheral oxygen saturation(末梢血酸素飽和度) や、percutaneous oxygen saturation(経皮的酸素飽和度)の p であると考える人もいて、それぞれの主張は一理あります。翻訳の実務では SpO2 とそのまま書けばよいわけですから、どれが正しいかにこだわる必要はないでしょう。

on room air:ルームエアで;室内気吸入時の
酸素吸入などをしない普通の状態でという意味。

physical exam:身体診察

conjunctival pallor:結膜蒼白
健康であれば下まぶたの裏側は赤みを帯びていますが、ここが白く見える状態。貧血を示唆します。

tenderness:圧痛
圧迫したときに感ずる痛み。

to palpation in the epigastric region: 「心窩部の触診に対して」

rebound:反跳痛
圧迫した手を急に離したときに感じる鋭い痛み。

guarding:防御
障害された部位を圧迫から守るための筋肉の痙攣。

A nodular liver edge is palpated 5 cm below the costal margin.
「肋骨弓下5cmの肝辺縁に小結節を触知する」
nodular liver edge:逐語訳は「小結節性の肝辺縁」
palpate:触診する
costal margin:肋骨弓(=costal arch)

INR(international normalized ratio):(プロトロンビン時間の)国際標準比
プロトロンビン時間は血液の凝固能力を調べる検査。採取した血液に試薬を加えて固まるまでにかかる時間を計測します。プロトロンビン時間は加える試薬や測定機器によって差が生じますが、その差を補正したものが INR。

localizing symptom:(明確に)病変部位を示す症状
localizing symptom を「局在症状」と訳している辞書や用語集がありますが、localizing symptom の localize は「限られた場所に存在する」ではなく、「場所を突き止める」という意味で、localized symptom や focal symptom とは少し意味合いが違います。英語の医学辞書には localizing symptom の説明として a symptom indicating clearly the seat of the morbid process [Farlex Partner Medical Dictionary]と書かれています。
もっとも、「局所的な症状」と「病変部位を示す症状」は重なることも多いでしょうから、結果的に localizing symptom の訳として「局在症状」で十分なことはあるかもしれません。
この動画内での localizing symptom は具体的には心窩部の圧痛を指します。

differential:(=differential diagnosis)鑑別診断
鑑別診断とは、似た症状の複数の病気の中から、実際に患者がかかっている病気がどれであるかを突き止めること。

 

determine

医学文献によく現れる determine の意味は、おおまかに次の2つに分けられます。

(1)決定する
(2)明らかにする、解明する、(数値、比率などを)求める

「決定する」の意味については説明は不要でしょう。

The shape of a protein is determined by its amino acid sequence.
(タンパク質の形状はそのアミノ酸配列によって決まる

しかし上記(2)の意味なのに「決定する」と訳されている例をよく見ます。

Studies are needed to determine whether the drug is safe and effective.
(その薬が安全で有効かどうかを×決定するために試験が必要である)

薬が安全で有効かどうかは人間が決めるのではなく、調べて明らかになることですから「安全で有効かどうかを決定する」はおかしいでしょう。「調べる」や「明らかにする」が適当です。

Endoscopy is the best way to determine the cause of GI bleeding.
(消化管出血の原因を突き止めるには内視鏡検査が最善の方法である)

これも先の例と同じ理由で「原因を決定する」は不自然です。ただ、考えられる原因の候補がいくつかあって、検査の結果に基づいてそのうちの1つを選ぶ、などの状況では「決定する」の訳も可能かもしれません。公式のように訳を丸暗記するのではなく、文脈によって適切な訳を考える必要があります。

A biopsy determined that the tumor was benign.
(生検によって腫瘍は良性であると判明した

Hearing tests are carried out to determine the level of hearing.
(聴力検査は聴力レベルを測定するために行われる)

determine のこの意味は、英英辞典では find out や discover などと説明されています。文脈によって「判定する」、「求める」、「測定する」、「調べる」など、いろいろな訳が可能です。もしどれにしてよいか迷ったら「明らかにする」と訳せないか考えてみてください。

 

Understanding Clinical Trials

今回は臨床試験について解説した動画を紹介します。臨床試験がどのようなものかまだよく知らない人は、まず日本語で解説した次の動画を観ることをお勧めします。

治験って何?
(動画開始まで10秒ぐらいかかります)

臨床試験の中で新薬の承認を得るために行う試験を特に「治験」と言います。これは日本独自の言い方で、英語では「臨床試験」も「治験」もどちらも clinical trial です。上の動画「治験って何?」は治験の参加者を募集するためにつくられたものですが、医薬品開発の概要がわかりやすく解説されているので、背景知識のない人には参考になると思います。特に 1:48~8:04 の部分が役立ちます。

臨床試験を英語で解説したものとして、今回の題材は次の動画です。

この動画も臨床試験の参加ボランティア向けにつくられています。The National Pancreas Foundation(米国膵臓財団)がスポンサーなので、膵臓がん患者を念頭に解説しています。動画は Mechanisms in Medicine という会社が制作していますが、この Mechanisms in Medicine の YouTube チャンネルには医学の勉強に役立つアニメーションがたくさんあります。

02:39 以降のポイントを解説します。

In late-stage clinical trials, participants are generally split into two groups ... :
臨床試験は薬や医療機器の効果や安全性を調べるために行いますが、ある薬の効果や安全性がどの程度あるかを科学的に示すには、何か基準になるものと比較する必要があります。よく行われるのは、参加者を、試験薬を使用するグループと使用しないグループの2つに分けて試験を行い、それぞれの結果を比較するという方法です。このように分けたグループを「群」と言い、2つの群のうち、試験薬を使用する群を「治療群 treatment group」、比較対象となる群を「対照群 control group」と言います。
動画では、標準治療薬(standard treatment)と新薬を服用する群を治療群、標準治療薬だけを服用する群を対照群としています。標準治療薬とは、既に承認されていて効果や安全性に関して実績のある薬です。
treatment は、辞書には「治療」や「治療法」の訳しか載っていませんが、「薬」と訳す方が明快になるケースがあります。この動画内のいくつかの treatment はそれに該当します。

randomly assign:無作為に割り付ける
患者を治療群か対照群のどちらかに割り当てることを、この分野では「割り付ける」と言います。普通、「割り付け」はコンピュータを使って無作為に行われます。無作為割り付けは、割り付けの際に患者や医師の意向によって生じるかもしれないバイアスを避けるために行います。

randomization:無作為化;ランダム化
臨床試験での randomization は「無作為割り付け」のことですが、通例「無作為化」や「ランダム化」と訳されます。

A “placebo” is a treatment that looks identical to the new treatment, but contains no active ingredient. :
「プラセボは、新薬とそっくりに作ってあるけれども有効成分を含んでいない薬(偽薬)です」
プラセボは有効成分を含んでいないので薬と言うのは抵抗があるかもしれません。その場合は「偽薬」などと訳すこともできます。

blinded:盲検化した

one or more parties involved in the trial:
この party は同一の行動や仕事をするひとまとまりの人たちを意味しますが、この場合「当事者」ぐらいしか適当な訳語がありません。party の訳にこだわらずに「試験参加者または担当医師」などとしてもよいでしょう。ここでは、一つの party は試験参加者(被験者)、もう一つの party は担当医師などです(結果を評価する人やデータ解析を行う人を考慮に入れる場合もあります)。

single-blinded:単盲検(の)

double-blinded:二重盲検(の)

double-blinded, randomized, controlled clinical trial: 二重盲検無作為化比較(臨床)試験
「ランダム化(randomized)」や「対照試験(controlled trial)」と言われることもありますが、専門文献で最も多く見るのは「無作為化比較試験」です。

review committee:審査委員会
動画の画面では Institutional Review Boards(IRB)と書かれています。Institutional Review Board は、「施設内審査委員会」や「治験審査委員会」などと訳されます。アメリカと日本では制度も違うので、これらの訳語が正確でない場合もあります。訳として IRB で十分なことも多いです。

phase 1 clinical trial:第 I 相臨床試験

phase 0
臨床試験の「臨床」とは「ヒトを対象にした」という意味です。普通、臨床試験を行う前に、安全性や薬物動態などを調べるために動物を使った試験を行います。この試験は非臨床試験や前臨床試験などと言われます。しかし、この動画で述べられているように、この段階でも動物ではなくヒトを対象にしたり、また臨床試験の開始後も行われたりするので、「非臨床」も「前臨床」も名称として適切でない場合があります。そのため最近は、第0相試験と言われることが増えています。

eligibility criteria:適格基準

If a Phase 3 clinical trial is positive, ... :
「第III相臨床試験が期待通りの結果であれば」
臨床試験が positive であるとは、薬の効果や安全性に関して予想通りの結果が示されていることを意味します。

 

このブログについて

(以前「固定ページ」に書いていた内容です。スマホ画面からも見られるようにここに移動しました。「カテゴリー」のリンクからこのページに来た人は、上の記事タイトルの「このブログについて」を(再度)クリックしてください)

私の講座を終えた修了生の皆さんから「もっと勉強を続けたいので勉強会をしてほしい」というご要望を聞くことがよくあります。それにお応えして実際に勉強会を開いたこともありましたが、なかなかコンスタントに開催する余裕がありません。このブログは、受講生・修了生の皆さんのそのようなご要望にお応えして、多少でも勉強の材料を提供できればと思って始めました。

講座の修了生で実力のある人は翻訳の現場で活躍してくださっていますが、その人たちが仕事の中で感じた疑問などについても取り上げています。また、これからメディカル翻訳(医薬翻訳)の勉強を始めようと考えている人たちにも参考になる記事を書いていく予定です。

 

執筆者プロフィール

K. Yoshida
立命館大学理工学部数学物理学科卒
フリーランス翻訳者
2009年4月から2024年2月までILC国際語学センター東京校にてメディカル翻訳コースを担当

 

メディカル翻訳に必要なもの

メディカル翻訳(医薬翻訳)に関連してインターネット上でさまざまなことが言われています。「専門知識がなくても短期間でプロの翻訳者になれる」とか、逆に「専門分野のバックグラウンドがなければメディカル翻訳は無理」とか。しかし、これまで多くの受講生を見てきた経験から言わせてもらうと、どちらも正しくありません。

そもそも誰でも簡単にできるのであれば、この分野の翻訳は職業として成立しないでしょう。メディカル翻訳がカバーする範囲は非常に広いので、ある程度の時間をかけて勉強する覚悟は必要です。

「専門分野のバックグラウンドが必要」という意見はよく聞きます。しかし、広範囲に及ぶ医学・薬学の知識を持っていなければならないとしたら、医師以外にメディカル翻訳をできる人などいないでしょう。生物学や化学のバックグラウンドを持つ人がこの分野の翻訳に有利であるのは間違いないですが、臨床研究や医薬品開発に関連する文書などを翻訳する場合は、いわゆる文系の人でも、生物・化学系の人と条件はあまり変わらないと思います。

これからメディカル翻訳の勉強を始めようという人には、英語力の重要性を強調しておきます。たとえば勉強を開始する時点で、(A)専門知識はあるけれども英語力はない人(B)英語はできるけれども専門知識はない人を比べて、1年後にどちらがプロの翻訳者になる可能性があるかと言えば、間違いなく(B)の人です。専門分野の知識は勉強すればその分だけ確実に積みあがっていくのに対して、翻訳に必要なレベルの英語力となると、目に見える形でメキメキと身についていくことはないからです。専門知識も英語力もどちらも重要ですが、その習得のスピードに大きな差があります。

翻訳は語学力があってはじめて成り立つ仕事です。英語力が重要であることは当たり前なのですが、この分野の翻訳では軽く見られているような気がします。