メディカル翻訳雑感

メディカル翻訳講師のブログ。翻訳の勉強に役立ちそうなヒントや情報を思いつくまま書いています。

GI Bleed with Case

今回紹介する動画は Lecturio Medical というチャンネルの GI Bleed with Case(消化管出血とその症例)です。

GI Bleed with Case – Approach to Patients with GI Symptoms | Lecturio

Lecturio Medical は、医師や看護師などを目指す人向けに多くの動画を提供しています。今回の動画は消化管出血の症例研究の導入部分で、内容は次の2つの動画へ続きます。

Initial Management and Diagnostic Studies – Approach to Patients with GI Symptoms | Lecturio

Patients with GI Bleed – Approach to Patients with GI Symptoms | Lecturio

以下、主な語句を解説します。

GI Bleed:消化管出血
GI(gastrointestinal):消化管の;胃腸(管)の
gastro は「胃」、intestine は「腸」を意味するので、たいていの辞書には gastrointestinal の訳として「胃腸の」としか書かれていませんが、「消化管の」と訳す方が適当な場合が多いです。たとえば upper GI tract は、胃と腸だけでなく食道や口も含むので「上部胃腸管」よりも「上部消化管」と言う方が普通です。また lower GI tract(下部消化管)は空腸から肛門までを意味し、胃を含まないので「下部胃腸管」とはあまり言いません。

coffee ground emesis:コーヒー残渣様嘔吐;コーヒー残渣様吐物の嘔吐
「コーヒー残渣様」とは「コーヒーを抽出した後のコーヒーかすのような」という意味なので、厳密に言えば「嘔吐物(吐いたもの)」を修飾すべきで、「嘔吐(吐くこと)」を修飾するのはおかしいかもしれません。しかし、多くの専門家が「コーヒー残渣様嘔吐」と言っています。

dull pain:鈍痛
epigastric pain:心窩部痛

3 to 6 beers a day
米国で one beer はアルコール度数5%のビール12オンス(355mL)に相当します。訳としては「ビール(355mL)を1日3~6本」などが可能です。

baby aspirin
baby aspirin は81mg以下の「低用量アスピリン」。低用量のアスピリンは血栓・塞栓をできにくくする効果があります(高用量ではこの効果は失われます)。baby aspirin を「小児用アスピリン」と訳しているのを見かけますが、アスピリンは子供には推奨されないので、現在「小児用アスピリン」というものはありません。

SpO2(saturation of oxygen):酸素飽和度
酸素飽和度は、血中の赤血球に含まれるヘモグロビンの何%に酸素が結合しているかを示します。
S のあとの p が何を略したものかについてはいろいろなことが言われています。英語の文献では "oxygen saturation measured by pulse oximetry (SpO2)" のような記述が多いので、測定方法の pulse oximetry(パルスオキシメトリー)の頭文字と考えるのが妥当だと思います。他に、peripheral oxygen saturation(末梢血酸素飽和度) や、percutaneous oxygen saturation(経皮的酸素飽和度)の p であると考える人もいて、それぞれの主張は一理あります。翻訳の実務では SpO2 とそのまま書けばよいわけですから、どれが正しいかにこだわる必要はないでしょう。

on room air:ルームエアで;室内気吸入時の
酸素吸入などをしない普通の状態でという意味。

physical exam:身体診察

conjunctival pallor:結膜蒼白
健康であれば下まぶたの裏側は赤みを帯びていますが、ここが白く見える状態。貧血を示唆します。

tenderness:圧痛
圧迫したときに感ずる痛み。

to palpation in the epigastric region: 「心窩部の触診に対して」

rebound:反跳痛
圧迫した手を急に離したときに感じる鋭い痛み。

guarding:防御
障害された部位を圧迫から守るための筋肉の痙攣。

A nodular liver edge is palpated 5 cm below the costal margin.
「肋骨弓下5cmの肝辺縁に小結節を触知する」
nodular liver edge:逐語訳は「小結節性の肝辺縁」
palpate:触診する
costal margin:肋骨弓(=costal arch)

INR(international normalized ratio):(プロトロンビン時間の)国際標準比
プロトロンビン時間は血液の凝固能力を調べる検査。採取した血液に試薬を加えて固まるまでにかかる時間を計測します。プロトロンビン時間は加える試薬や測定機器によって差が生じますが、その差を補正したものが INR。

localizing symptom:(明確に)病変部位を示す症状
localizing symptom を「局在症状」と訳している辞書や用語集がありますが、localizing symptom の localize は「限られた場所に存在する」ではなく、「場所を突き止める」という意味で、localized symptom や focal symptom とは少し意味合いが違います。英語の医学辞書には localizing symptom の説明として a symptom indicating clearly the seat of the morbid process [Farlex Partner Medical Dictionary]と書かれています。
もっとも、「局所的な症状」と「病変部位を示す症状」は重なることも多いでしょうから、結果的に localizing symptom の訳として「局在症状」で十分なことはあるかもしれません。
この動画内での localizing symptom は具体的には心窩部の圧痛を指します。

differential:(=differential diagnosis)鑑別診断
鑑別診断とは、似た症状の複数の病気の中から、実際に患者がかかっている病気がどれであるかを突き止めること。