メディカル翻訳雑感

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Understanding Clinical Trials

今回は臨床試験について解説した動画を紹介します。臨床試験がどのようなものかまだよく知らない人は、まず日本語で解説した次の動画を観ることをお勧めします。

治験って何?
(動画開始まで10秒ぐらいかかります)

臨床試験の中で新薬の承認を得るために行う試験を特に「治験」と言います。これは日本独自の言い方で、英語では「臨床試験」も「治験」もどちらも clinical trial です。上の動画「治験って何?」は治験の参加者を募集するためにつくられたものですが、医薬品開発の概要がわかりやすく解説されているので、背景知識のない人には参考になると思います。特に 1:48~8:04 の部分が役立ちます。

臨床試験を英語で解説したものとして、今回の題材は次の動画です。

この動画も臨床試験の参加ボランティア向けにつくられています。The National Pancreas Foundation(米国膵臓財団)がスポンサーなので、膵臓がん患者を念頭に解説しています。動画は Mechanisms in Medicine という会社が制作していますが、この Mechanisms in Medicine の YouTube チャンネルには医学の勉強に役立つアニメーションがたくさんあります。

02:39 以降のポイントを解説します。

In late-stage clinical trials, participants are generally split into two groups ... :
臨床試験は薬や医療機器の効果や安全性を調べるために行いますが、ある薬の効果や安全性がどの程度あるかを科学的に示すには、何か基準になるものと比較する必要があります。よく行われるのは、参加者を、試験薬を使用するグループと使用しないグループの2つに分けて試験を行い、それぞれの結果を比較するという方法です。このように分けたグループを「群」と言い、2つの群のうち、試験薬を使用する群を「治療群 treatment group」、比較対象となる群を「対照群 control group」と言います。
動画では、標準治療薬(standard treatment)と新薬を服用する群を治療群、標準治療薬だけを服用する群を対照群としています。標準治療薬とは、既に承認されていて効果や安全性に関して実績のある薬です。
treatment は、辞書には「治療」や「治療法」の訳しか載っていませんが、「薬」と訳す方が明快になるケースがあります。この動画内のいくつかの treatment はそれに該当します。

randomly assign:無作為に割り付ける
患者を治療群か対照群のどちらかに割り当てることを、この分野では「割り付ける」と言います。普通、「割り付け」はコンピュータを使って無作為に行われます。無作為割り付けは、割り付けの際に患者や医師の意向によって生じるかもしれないバイアスを避けるために行います。

randomization:無作為化;ランダム化
臨床試験での randomization は「無作為割り付け」のことですが、通例「無作為化」や「ランダム化」と訳されます。

A “placebo” is a treatment that looks identical to the new treatment, but contains no active ingredient. :
「プラセボは、新薬とそっくりに作ってあるけれども有効成分を含んでいない薬(偽薬)です」
プラセボは有効成分を含んでいないので薬と言うのは抵抗があるかもしれません。その場合は「偽薬」などと訳すこともできます。

blinded:盲検化した

one or more parties involved in the trial:
この party は同一の行動や仕事をするひとまとまりの人たちを意味しますが、この場合「当事者」ぐらいしか適当な訳語がありません。party の訳にこだわらずに「試験参加者または担当医師」などとしてもよいでしょう。ここでは、一つの party は試験参加者(被験者)、もう一つの party は担当医師などです(結果を評価する人やデータ解析を行う人を考慮に入れる場合もあります)。

single-blinded:単盲検(の)

double-blinded:二重盲検(の)

double-blinded, randomized, controlled clinical trial: 二重盲検無作為化比較(臨床)試験
「ランダム化(randomized)」や「対照試験(controlled trial)」と言われることもありますが、専門文献で最も多く見るのは「無作為化比較試験」です。

review committee:審査委員会
動画の画面では Institutional Review Boards(IRB)と書かれています。Institutional Review Board は、「施設内審査委員会」や「治験審査委員会」などと訳されます。アメリカと日本では制度も違うので、これらの訳語が正確でない場合もあります。訳として IRB で十分なことも多いです。

phase 1 clinical trial:第 I 相臨床試験

phase 0
臨床試験の「臨床」とは「ヒトを対象にした」という意味です。普通、臨床試験を行う前に、安全性や薬物動態などを調べるために動物を使った試験を行います。この試験は非臨床試験や前臨床試験などと言われます。しかし、この動画で述べられているように、この段階でも動物ではなくヒトを対象にしたり、また臨床試験の開始後も行われたりするので、「非臨床」も「前臨床」も名称として適切でない場合があります。そのため最近は、第0相試験と言われることが増えています。

eligibility criteria:適格基準

If a Phase 3 clinical trial is positive, ... :
「第III相臨床試験が期待通りの結果であれば」
臨床試験が positive であるとは、薬の効果や安全性に関して予想通りの結果が示されていることを意味します。