メディカル翻訳雑感

メディカル翻訳講師のブログ。翻訳の勉強に役立ちそうなヒントや情報を思いつくまま書いています。

pathogenesis(発症;発症機序)

pathogenesis は、「病気」を表す patho- と「発生(の過程)」を意味する -genesis から成る語です。もし論文のタイトルが Pathogenesis of Diabetes であれば、その論文は「糖尿病がどのように発症するか」について述べています。pathogenesis は、たいてい「発症機序(発症メカニズム)」と訳せば十分ですが、どういうわけか、この訳語を載せている辞書や用語集はあまりありません。

A greater understanding of the pathogenesis of pancreatitis is needed to develop treatment strategies for pancreatitis.
(膵炎の治療戦略を開発するために、膵炎の発症機序をもっとよく理解する必要がある)

The pathogenesis of peptic ulcer disease is multifactorial.
(消化性潰瘍の発症には多くの因子が関与している)

pathogenesis を「病因」と訳しているのをよく見かけます。病気の発症メカニズムについて述べれば、病気の原因も明らかにされるので、一見「病因」の訳もよさそうです。しかし、上の2つの例文で pathogenesis を「病因」と訳してしまうと、著者が pathogenesis と書いた意図が正しく伝わりません。「病因」と言いたければ著者は etiology を使ったでしょう。論文のタイトルなどで、etiology and pathogenesis of +[病気]の形はよく目にしますが、もし pathogenesis を「病因」としたら(etiologyも「病因」なので)このフレーズを訳すのに困るはずです。

etiology and pathogenesis of Parkinson's disease
(パーキンソン病の原因と発症機序)